懐かしい歌 思い出す空 君はもういないというのに
つかもうとしたものは無垢の水 わたしの血で汚したかった

たたえた滴 捨てた花 君はもう忘れてしまったのだろう
しずめようとしたものは燃ゆる炎 二度と燃え上がることのないように


欲する吐息で凍らせて 瞳の冷気は私をとらえ
のばした手から影がのびて でも あなたの指はまだ遠く
声にならない叫びも 欲する吐息も いとおしいまなざしさえも

ぜんぶ幻だと



冷たい体 開いた口 絡まった髪 静かな息
射落とした鳥 うつろあなた あえぐあたし 砕いた骸

遠くから聞こえたさえずりは 耳元で聞こえることはなく
風に握られた手を 握りかえすこともできなく
結局声にならなくて 結局聞くことができなくて



体にしがらむ寂寞は 空に消えて風になって

手をついた大地から 懐かしい歌が聞こえた

雨が降ったあとの水たまりにうつったすべては ぜんぶぜんぶ本当のことだった


懐かしい歌 思い出す空 君はもういないというのに
つかもうとしたものは消えてしまったけれど 手にはまだあなたの血がこびりついている