にぎやかしい街中、夕暮れが近づくと一段とにぎやかしい。本当は彼が来てくれる日でもよかったんだけど…。いつも裏路地にいるから、表のにぎやかなのは慣れない。

 ストリートパフォーマー達は、まるで賽銭箱のように自分たちの前に箱をおいて、パフォーマンスをしている。人だかりが出来ているところもあれば、そうでないところもまた然り。
 「彼だったら…」見つけるのは、そんなに難しくなかった。人だかりの頭を越えて、彼のカラーボールが飛んだ。パフォーマンスが終わるまですこしまって、人だかりが崩れたところで彼に歩み寄る。彼は、少し忙しそうに、手際よく手品の用具を片づけている。
 「シャワーって…」そういいながら彼の足下のカラーボールを6つ掴んだ。
 彼は少し驚いて見上げ、僕を確認すると目線を落として片づけを再開した。
 「難しくない?僕苦手なんだよねー」といって僕はそのうち3つを宙に投げた。
 ひょい、ひょい、と手際の悪い僕のジャグリングをみて、彼はじれったそうにしている。
 「返してくれませんカ?」「ああ、ごめんね、ねえちょっとやってみてよ」
 もっていた3つのカラーボールを差し出すと、彼はちょっと息をついてから、「じゃあ一回だけ」と器用に、僕の2倍以上の早さでボールを投げる。

 たまに順番が変わったりして彼の投げているボールは4つだ。それに気がついた彼は、首をひねりぼくを怪訝な目で見る。僕はちょっと笑って、5つ目のボールを放った。ちょっと意地悪してタイミングの悪い時に投げるのに、彼は全然ボールのスピードを緩めず、安定したシャワーをする。僕は6つめのボールも加えて、後はボールの描く円を見ていた。
 「…もう、いいですカ」
 6つめの白いボールが降りてきたところで彼はシャワーをやめてしまった。まって、僕はにこっと笑って、彼の手の中の白いボールに手をあてて、さっと挙げた。
 彼の白いボールは、僕の手の中で一羽のハトになる。6つのボールをトランクに戻しながら、なんですか急いでるんでスと怪訝な目で僕をみる。
 ああ、ごめんねと僕はハトを手の平で包んでボールに戻して、彼に投げた。でもそれはボールではなく、彼の手の中に収まった時には、小さな赤いリボンのついた箱になっていた。
 「あげる、お店で配ってたんだけど、あまっちゃって、あ、それダメだったら誰かにあげてね」

 ぱっぱっと白いハトを出しては肩に乗せてみたり、消してみたりしながら彼の様子をうかがった。彼はちょっとためらってから「ありがとうございます、」といってズボンに入れてくれた。
 「あと、ボール、返してくれます?」トランクを引きかけて思い出したように彼は言い、手を差し出す。
 「もう、返したじゃない。自分で締まっていたくせに」
 僕はにっこり笑ってトランクを指でさしてウィンクした。

シロハトマジック (ルシアン×ヤシロさん宅クラウン・クラウン君)