「いるかなー…」
 いつもあいつとよく遊ぶ、というかケンカしている廃墟。
 なんかなー照れくせぇな…あいつのことなんにも思ってないけど。照れながらチョコを作るヒナギクをみたら自分まで照れくさくなっちまった。

 曇り空を仰ぐ、ため息に近い深呼吸してからパールからもらってきた水晶のでっかい塊を力任せに空にぶつけて、叫んだ。
 「おるあぁああ、イクスの馬鹿野郎!出てこい!」虚空に響く。
 空にあがった水晶は目の前で落下をやめたと思うと、そこからあいつが出現しやがった。
 「んだよ…るっせえなあ…」たばこをふかしながら、不機嫌そうな目で睨まれる。
 「おお、いたか」
 「ったく、テメェが叫ぶからだろ、なんだ、ケンカしにきたのか?」
 にやっとわらって、げんこつをピストルの様に繰り出し、おいらの額で寸止めした。
 「ちげェよ、タコが」その手を押しのけて、ため息をついた。渡しにくい…畜生、なんでおいらが…

 「じゃあなんだよ、カエルマニア野郎、用がねえんなら消えるから」「まっ、まて…!」
 あいつの水晶を投げようとする手を焦って押さえつけて、もう一つの方の手に無理矢理チョコの包みを握らせた。

 「…ああ、辛気くせぇえ!これやるよ!」ずっと握っていたカエルのチョコは溶けて、もう跡形も無いかもしんねえ…
 「ああ?んだこれ、いきなりチョコなんて…」
 「ああん、てめえ知らねえのか、今日はバレンタインだぞ、女が男にチョコをあげる日なんだぞ!」
 「それはしってっけど…もしかしてテメェ…オレのこと…ああ、悪いけど年下はまったく…」
 「ばっ、馬鹿かてめえ、んなんじゃねえよ、義理だ、義理、浮かれるんじゃねえ!いらないんなら捨てろよ!」
 あいつの言葉の続きを遮って、力任せにチョコめがけて剣を振った。でもあいつは瞬時に水晶を手放して、実体を失っていき、チョコも落ちた。

 「あっ…、…畜生、じゃあな!次はその首かっ切ってやるから覚悟しとけ!」
 ちょっと気まずくなって、あいつがいるらしい空気を背にして早足に歩いた。

 ちょっと歩いて後ろを振り向くと水晶とたばこの煙だけが残っていた。
 「ありがとな」 虚空の空に響いた。…照れくせえな、ああ照れくせぇええ!

 「てめえ、来月は3倍返ししろよなあぁあッ!」
 見えないあいつがいる空に、空気の刃をたたきつけた。

あいつと虚空 (椿×ヤシロさん宅ix君)